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旭川地方裁判所 昭和33年(行)2号 判決

上川郡比布村北五線八号

原告

森川宮松

旭川市宮下通一〇丁目

被告

上川税務署長

斎藤馨

右指定代理人

宇佐美初男

千葉正道

高田金四郎

菊地美津雄

佐藤隆一

右当事者間の昭和三三年(行)第二号所得税賦課処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立。

原告は、「被告が原告に対し昭和三一年九月二六日付でなした原告の昭和三〇年度の所得金額を三四八、三二一円とする更正処分のうち金二四九、四九〇円を超える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め。

被告は主文同旨の判決を求めた。

第二、請求の原因。

一、原告は肩書住所で農業を営む者であるが、昭和三一年三月一五日昭和三〇年度分の所得金額を金二四九、四九〇円として確定申告した。ところが被告は同年九月六日右所得金額を金四五七、六二八円とする旨の更正処分をしたので、原告はこれを不服として同年九月二四日被告に対し再調査の請求を行つた。しかし被告は同年九月二六日付で右更正処分の誤謬訂正と称して所得金額を金三四八、三二一円と変更し(以下本件更正処分という。)たのみで同年一二月二七日付で再調査の請求を棄却した。そこで原告は昭和三二年一月二六日札幌国税局長に対し右棄却決定を不服として審査の請求をしたが、右審査請求は同年一二月二七日付で棄却された。

二、しかしながら、原告の昭和三〇年度の所得金額は別紙「昭和三〇年度農業所得明細書」記載のとおり、同年度分総収入金八五四、三一〇円から必要経費金四〇四、八二一円を差引いた金二四九、四九〇円にすぎない。従つて、被告のなした本件更正処分のうち、右金額を超える部分は違法であるから、その取消を求める。

第三、被告の主張。

一、原告主張第二の一の事実中、被告が確定申告を受理したのは昭和三一年三月二五日、再審査の請求を受けたのは同年九月二六日であり、札幌国税局長が審査請求を受理したのは昭和三二年一月二八日である。その余の事実はいずれも認める。

元来課税処分の対象となる課税標準たる所得の認定については税務官庁としてはできる限り具体的資料により収支の状況を明らかにし当該収支計算の方法によるべきことは当然であるが本件においては右所得の計算の基礎を明らかにすべき帳簿その他の資料が全く存しなかつたため原告が提出した収支計算書と称する書類(別紙記載の昭和三〇年度農業所得明細書。以下同じ)のみによつては到底原告の所得の実体を把握できなかつた。そこで、被告は、己むを得ず、かかる場合の所得算定の方法として所得税法第四五条第三項によつて許容されている推計々算の方法、すなわち農業所得標準率を適用して、その所得を認定した。右農業所得標準率は、各市町村毎に概ね地力等級に応じ五地帯に区分類し、その区分毎にその市町村の耕作反別の中庸となる農家四戸宛を選定し、これを標準農家となし、右標準農家の収入、支出などその経営の実態を精密に実額調査をなし、かつ市町村、農民団体から資料を蒐集して、各市町村毎にかつ各人別に適用すべきものとして合理的に作成されたものであるしその作成、適用にあたつては、各市町村農民団体の意見を徴し或いはその納得を得るものである。

右認定された原告の所得は次のとおりである。

(一)  所得金額。

1. 田の所得金額四五四、〇九三円。

作付面積二三二畝に対し、比布村農業委員会の答申による原告の反当り収獲量二石五斗二升四合に、農林省統計調査事務所比布村役場その他から蒐集した資料により合理的に算定された「なわのび」一一〇・七四パーセントを乗じて得られる反当り収獲量二石八斗を基準として、反当り所得金額一九、五七三円なる所得標準率を適用して得た金員。

2. 畑の所得金額四、一四四円。

作付面積四畝に対し、反当り所得金額一〇、三六〇円なる所得標準率を適用して得た金員。

3. めん羊一頭の所得金額一、五〇〇円。

一頭につき金一、五〇〇円なる所得標準率を適用して得た金員。

4. 俵代収入四、八〇〇円。

原告の供出した米穀四八石に対し、一石当り金一〇〇円として計算した金員。

5. 減収加算金一、三〇二円。

原告が九反三畝に対する減収補償金として農業共済組合から受領した金員。

合計金四六五、八三九円

(二)  特別控除額。

1. 土地改良費 金三七、五〇〇円

2. 水利費 金五、一一〇円

3. 雇人費 金二一、〇五〇円

4. 冷害利子 金一、〇五八円

5. 予約減税 金五二、八〇〇円

合計 金一一七、五一八円

(三)  そこで、前記総所得金額四六五、八三九円から右特別控除額合計一一七、五一八円を控除した金三四八、三二一円が、原告の当該年度分所得金額となる。

したがつて本件更正処分は違法でない。

二、なお、推計々算の一方法として、資産負債増減額の方法によつて、原告の当該年度分所得を算定すれば、次のとおりとなる。

〈省略〉

したがつて原告は昭和三〇年度に金五〇三、六二四円の所得があつたと認められるからこの点からみて右金額を下廻つて金三四八、三二一円と認定した本件更正処分にはなんらの違法もない。

第四、被告の主張に対する原告の答弁。

一、被告主張の第三の一の事実中田畑の各作付面積がそれぞれ二町三反二畝、四畝であること、めん羊が一頭いること、土地改良費が金三七、五〇〇円、水利費金五、一一〇円、雇人費が金二一、〇五〇円、冷害利子が金一、〇五八円であることは認める。減収加算金収入は別紙記載三(1)のとおり、金一、九六〇円である。

原告は、当該年度の収支の状況を明らかにする資料として、収支計算書および農業委員会反収証明書その他の資料(甲第三号証ないし同第一〇号証)を有し、これらの資料に基いて確定申告をなし、また再調査、審査の段階でもこれらを提出し、しかも再調査請求の際は調査のため原告宅を訪れた係官に全面的に協力したにも拘らず右の資料を全く無視して推計々算の方法によつて所得を確定したことは申告納税制度を否定するものであつて違法である。しかも、被告主張の所得標準率は、その作成にあたつての標準農家の選定および実額調査の方法が全く不完全不合理であり、しかも農業団体、納税者の意思を無視して一方的に適用されているものであつて、かかる所得標準率の適用による所得算定は明らかに違法である。

二、被告主張の第三の二の事実中カッターの期末価格が金二五、〇〇〇円、馬車のそれが金二〇、〇〇〇円、土地改良費が金三七、五〇〇円、農耕馬は金八〇、〇〇〇円であることは認める。現金は期首期末ともその額は不明であり、畜舎については、以前無価値のような古いものであつたのを取壊して昭和三〇年になつてから建てなおしたものであるが、その期末価格はわからない。(原告ははじめ別紙四(13)記載のとおり、畜舎費一二〇、〇〇〇円に陳述し、のちに右のように訂正した。)

前記のように、原告は、所得算定のための充分な資料を有していたのであるから、資産負債増減調査の方法による所得算定もまた許されない。のみならず本件更正処分の数字と一致しない点からみてもなんら妥当性のないものである。

第五、証拠

一、原告は、甲第一号証ないし同第一三号証を提出し、証人広瀬満寿喜、同森川操、同中条屋文次郎、同小原一良、同大谷光明、同五十嵐彌の各証言を採用し、乙第二号証、同第三号証の四、五、一〇、一一はその成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

二、被告は、乙第一号証の一ないし四、同第二号証、同第三号証の一ないし一五、同第四号証を提出し、証人宮原淳、同野口武、同花島渡、同佐藤隆一の各証言を採用し、甲第一号証ないし同第五号証、同第七号証、同第一二、一三号証は、その成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

一、原告が肩書住所で農業を営んでいること、昭和三一年三月昭和三〇年度分の所得金額を金二四九、四九〇円として確定申告したところ、被告は同年九月六日右所得金額を金四五七、六二八円とする旨の更正処分をしたこと、原告はこれを不服として同月中に被告に対し再調査の請求を行つたが、被告は同年九月二六日付で右更正処分の所得金額を金三四八、三二一円と変更する誤謬訂正をなしたのみで同年一二月二七日付で再調査の請求を棄却したこと、そこで原告は昭和三二年一月中札幌国税局長に対し右棄却決定を不服として審査の請求をしたが、右審査請求は同年一二月二七日付で棄却されたことは当事者間に争いがない。

二、よつて本件更正処分が違法であるかどうか、換言すれば原告の昭和三〇年度所得金額が金三四八、三二一円であるかどうかについて判断する。

課税標準となる所得を算定するためにはまずいわゆる実額調査方法によるべきであるから本件につき右方法が可能かどうかについて検討すると、これは申告の正確さ、および課税標準を確定するに足りる資料が存在していてはじめていい得ることであつて、かかる正確詳細な資料がなく、または不充分な場合には、推計計算の方法によつてこれを算定し得ることは所得税法第四五条第三項によつて明らかである。原告において収支計算書を提出したことは当事者間に争いないが、成立に争いない甲第三ないし第五号証、第七号証、証人森川操の証言によつて成立が認められる乙第四号証および証人佐藤隆一、同野口武、同森川操(一部)の各証言並びに弁論の全趣旨に徹すれば、原告は右認定の収支計算書を提出していたが、その科目につき、その計算の基礎を確認するに足りる資料がなにも無かつたり、或いは一部だけ存するにすぎなかつたこと、すなわち、まず収入面については、水田の反当り収穫量および供出分の証明書があつたが、米穀以外のものについてはその所得を確定できる資料のなかつたこと、次に支出面については、雇人費、農業協同組合からの惜入金、支払利子などの証明書は存したが、公租公課、肥料費、農薬費、各種負担金などについては一部の資料だけであり、修理費、養畜費、衣料費、「その他の経費」に関するものはなく、そのほか、預金通帳はあつたが、特に家計簿、金銭出納簿等が備付けられていなかつた事実を認めることができる。証人森川操の証言中右認定に反する部分は前示各証拠と対比するときはたやすく措信できず、その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

原告は本訴において所得算定のための資料として昭昭三〇年度産米反当収穫証明書(甲第一号証)、出荷証明書(甲第四号証)、納税証明書(甲第五号証)、農業労務者の領収書(甲第六号証)、家畜税、農業災害補償法に基く掛金領収証(甲第七、第八号証)、農業協同組合に対する債務利息証明書(甲第九号証)、農業協同組合の売掛金請求書(甲第一〇号証)を提出しているが(内第六、第八ないし第一〇号証は証人森川操の証言によつて成立が認められその余の甲号証の成立は当事者間に争いない)反当収穫量は後記認定の繩のびの関係で直ちに収穫量を証明するものとは認められず、その他右書証によるだけでは収支を明確にすることはできない。

右認定したところによれば、右の収支計算書の正確性を確認することができず実額調査の方法によつて、その所得を算定することは不可能であると認めるを相当とする。

三、しかして右のような実額計算が不可能な場合は所得税法第四五条第三項によつて明らかなように推計々算によつて算定することになる。

よつて被告主張の農業所得標準率によつて算定してみるが右標準率の合理性につき争いがあるので、これを判断する。

1. まず、水稲の部適用標準率、特殊畑の部適用標準率、家畜所得標準率について考えるに、証人宮原淳の証言によつていずれも成立が認められる乙第一号証の一、三、四と証人宮原淳、同大谷光明、同広瀬満寿喜、同小原一良の証言を総合すれば、札幌国税局は北海道全市町村からその中庸となる三箇の市町村(昭和三〇年度は上川郡風連町等)を選択し、さらにその各市町村毎に概ね地力等級に応じて最高、上、中、下、最下位の五地帯に区分類し、その区分毎にその市町村の平均耕作反別の中庸となる農家を四戸宛選定し、これを標準農家と定め、ついで税務署と共同でこの標準農家各戸の経営の実態、収入面、支出面その他一切の事情について、所得標準率の採用される前年の七月頃と十月中旬の二回に亘りできるかぎり精密に(普通は係官一人が一戸につき一日間程度を要して)調査して資料を集め更に税務署長は市町村農業団体から必要経費についての意見を求め又国税局でも妥当性につき農業団体の意見を求め国税局で調整した上更に国税庁における全国農業所得標準率の会議で検討されその後税務署長会議を経、地方の特殊性を考慮して作成公開されたものであること、したがつて勿論原告の居住村である上川郡比布村および同村農業委員会、同村々税対策委員会その他同村各種農民団体の意見を徴して(尤も税務官庁と右の団体等と完全な意見の一致がみられなかつたとしても)慎重に決定されたものであることが認められ、証人大谷光明、同広瀬満寿喜、同小原一良、同五十嵐久弥の各証言中右認定に相違する部分はたやすく信用できずその他これを覆すに足りる証拠はない。してみると、前掲各所得標準率は農家所得を推計するため合理的なものと解するのが相当である。

2. つぎに、被告は、原告の田の所得算出については、比布村農業委員会の答申による原告の反当り収穫量に対し、いわゆる「なわのび」一一〇、七四パーセントを乗じ、これを基準として右の「水稲の部所得標準率」を適用すべきものと主張するので、かかる方法の相当性を考えるに、証人宮原淳の証言によつて成立の認められる乙第一号証の二(水稲収穫量査定調書)および同証人の証言によると、収穫量についても、正確な申告の行われ難いところから政府機関である農林省統計調査事務所公表の当該年度の統計を基礎として作成されたこと、すなわち、(1)右統計調査事務所公表の比布村全体の水稲作付面積一九、六三八反から課税対象とならない学校法人等及び開拓者反別を差引いた一九、五一〇反を比布村が答申した九七九戸の反別を集計した反別一八、九一八反で除した一〇三・一%が実際のなわのびであるが、右なわのびの安全率確保のため五〇%を乗じ結局税務署は右一八、九一八反に一〇一・五五%を乗じた一九、二二一反を定め、(2)統計調査事務所公表の比布村の平均反当収穫量二石三斗六升五合に右一九、二二一反を乗じた四五、六六九石九升六合を比布村の収穫量と定めこれを前記比布村答申の反別一八、九一八反で除した二石四斗一升四合を平均反当収穫量と定め、(3)右二石四斗一升四合を比布村答申の平均反当収穫量二石一斗八升一合で除した一一〇・七四%を補正率としたことが認められるから、右の収穫量算定標準もまた相当であると解される。

尤も、成立に争いのない甲第三号証および証人広瀬満寿喜、同小原一良、同大谷光明、同五十嵐久弥の各証言によれば、比布村農業委員会の答申した原告の反当り収穫量は、比布村村民および同委員会の各立見調査の結果、その両調査結果の調整によつて決定されたものであり、可成り信憑性のあるもののように思われるが、右各証拠によると右決定は専ら村民全体の税負担の公平を計ることに重点があることが推認されるし、両調査結果がどのように調整されたか未だ不明であり、しかも証人広瀬満寿喜の証言によると右の調査の結果によつてもいわゆる「かくし反別」のあることが推察されるのであるから、右各証拠によつても未だ前記算定基準の相当性を覆すに足らない。

なお、証人佐藤の証言によつて成立が認められる乙第三号証の一三によれば、前記「なわのび」の基礎となつた比布村における準農家作付反別の計算につき極く僅少の誤差がみとめられるけれども、「なわのび」の算定過程においては、すでにかかる誤差の存在が予定されて、本件一一〇・七四パーセントの割合を算出しているのであるから、右乙第三号証の一三の存在もなんら収穫量算定基準の相当性を疑わせるものではない。

四、進んで農業所得標準率を適用して所得金額を算定する。

(一)  田畑家畜の所得金額。

1. 田の所得金額。

原告の昭和三〇年度の作付面積が二町三反二畝であること、比布村農業委員会による原告の反当り収穫量が二石五斗二升四合であることは当事間に争いがない。

そこで、前記のいわゆる「なわのび」一一〇・七四パーセントを右反当収穫量に乗ずると適用標準となる同収穫量は二石八斗(正確には二石七斗九升五合余となるが、標準率適用上右係数に最も近似したものとして二石八斗とする)となり、前示乙第一号証の一および証人宮原淳、同花島渡の各証言によると、右収穫量に対応する反当り所得金額は金一九、五七三円であることが認められるから、田の総所得金額は四五四、〇九三円(円以下切捨)となる。

2. 畑の所得金額。

その作付面積が四畝であることは当事者間に争いなく、前掲乙第一号証の三および証人宮原淳、同花島渡の各証言によると、反当り所得金額は金一〇、三六〇円であることが認められるから、畑の総所得金額は四、一四四円と認定できる。

3. めん羊の所得。

めん羊一頭が存在することは原告の自認するところであり、前出乙第一号証の三と証人宮原淳、同花島渡の各証言によれば、その所得は一頭につき一、五〇〇円であることが明らかである

4. 俵代収入。

原告が当該年度に四八石を供出したことは争いのない事実である。証人花島渡の証言に徴すると、政府は右供出した際原告に対し一石当り一七五円を支払つてはいるが、右の石当り一七五円中には手数料その他の経費が含まれているので、これを控除して合理的に算出すると一石当り一〇〇円の収入があつたものと推認できるから、俵代総所得は四、八〇〇円と認められる。

5. 減収加算金収入については金一、三〇二円の限度においては原告の自認するところである。

(二)  特別控除額。

水利費、雇人費および冷害利子がそれぞれ金五、一一〇円、金二一、〇五〇円および金一、〇五八円であることは当事者間に争いのないところである。また成立の真正に争いのない乙第二号証と証人花島渡の証言によれば、米穀の事前売渡申込制度によつて供出した場合は売渡減税として所得金額から特別控除を受けるがその額は所得標準率の適用によつて、所得金額を決定している場合は一石につき金一、一〇〇円の割合による金員を売渡減税として控除することになつているところ、原告の当該年度供出分が四八石であることは当事者間に争いないから、本件につき売渡減税として特別控除さるべき金額が金五二、八〇〇円となることは明瞭である。

その他右認定を妨げるに足りる証拠はない。

土地改良費が金三七、五〇〇円であることは当事者間に争いなく、被告は所得標準率を適用するに当つて右金員特別控除の対象としているが、右証人佐藤隆一の証言によつて認められるように必要経費として特別控除さるべきものではない。

(三)  そうすると、原告の昭和三〇年度の所得金額は、右(一)の所得金額合計四六五、八三九円から右(二)の特別控除額合計金八〇、〇一八円を控除した金三八五、八二一円であることが認められる。

五、又資産負債増減調の方法によつて所得金額を算定する。

(一)  純資産増加額。

1. 資産の部の期首期末金額。

(a)  現金および予金

(イ) 現金。

証人佐藤隆一の証言並びに右証言によつて成立が認められる乙第四号証および弁論の全趣旨に徴すれば、被告において、原告の再調査請求に対し、資産負債増減調査の方法により、本件更正処分の当否を判断するため、訴外西明勝裕が原告宅で調査したところによると、現金の期首金額は金一二、〇〇〇円、期末金額は金三、〇〇〇円と認定されているところ、札幌国税局においてさらに慎重を期し本訴提起後の昭和三三年一一月訴外佐藤隆一をして再度資産負債増減調査の方法によつて原告の所得を算定した際、現金の期首高を確認するための確実な資料がなかつたので、止むを得ず期首高を期末高と同じ金三、〇〇〇円と認めた事実が肯認され、これに反する証拠はない。

しかして、右認定したところによれば、他に特段の事情の窺われない本件においては、現金の期首期末高をいずれも金三、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(ロ) 予金。

証人佐藤隆一の証言並びに右証言によつて成立が認められる乙第三号証の二によれば、

期首 期末

普通預金 金 五〇〇円 金七六、八一二円

一俵預金 金三、二一〇円 金三、四九六円

自賄預金   金一〇、〇〇〇円

納税預金   金六、二六〇円

であることが認められ、右認定を妨げるに足りる証拠はない。

(b)  農業用資金

(イ) 次の資産が昭和三〇年度中に取得され期末金額が次のとおりであることは当事者間に争いがない。

農耕馬 期末金額 金八〇、〇〇〇円

カッター 〃 金二五、〇〇〇円

馬車 〃 金二〇、〇〇〇円

土地改良費 〃 金三七、五〇〇円

(ロ) 畜舎につき。

被告はその期首価格が金一〇〇、〇〇〇円であると主張するがそれ以上でないことは原告の自認するところと考えられ、期末価格については、証人佐藤隆一の証言および弁論の全趣旨によると、金一二〇、〇〇〇円と認められる。

(c)  そうすれば、資産の部の期首金額は合計金一〇六、七一〇円で、期末金額は合計金三八二、〇六八円となる。

2. 負債の部の期首期末金額。

前掲乙第三号証の二および証人佐藤隆一の証言によると、

期首 期末

冷害借入金 一六、〇〇〇円 三、六〇〇〇円

証書 〃 四一、〇〇〇円

割賦 〃 三六、〇〇〇円 二七、〇〇〇円

であることが認定され、これを左右する証拠はない。従つて、負債の部の期首金額は合計金九三、〇〇〇円で、期末金額は合計金六三、〇〇〇円である。

3. 減価償却費。

原告が、別紙四(13)記載のとおり、モーター、脱穀機、カッター、籾すり機、製繩機、プラオ、リヤカー、自転車、畜舎、納屋、整地機、温床枠、温床障子、はさ木、馬車、耕馬、馬具および農道橋を有していること、そのうち、籾すり機、納屋、整地機および馬具の各償却費が別紙四(13)記録のとおりそれぞれ金一、八〇〇円、金六、三〇〇円、金五四〇円および金九〇〇円であることはいずれも当事者間に争いがない。

しかして、証人佐藤隆一の証言と右証言によつて成立が認められる乙第三号証の八によると、原告は減価償却費の対象となる物件として、右の他になお土管を有しておりその償却費が金五四四円、モーターは金六三九円、カッターは金四九〇円、製繩機は金七四七円、プラオは金五六三円、リヤカーは金二、一六〇円、自転車は金一、六八八円、畜舎は金三、六一八円、温床枠は金一、四四〇円、温床障子は金二、五五六円、はさ木は金三、五七八円、馬車は金一、四九四円、耕馬は三、三六〇円、農道橋は二、〇七八円であることがそれぞれ肯認され、これを覆し得る証拠はない。しかして原告はその他の物件について減価償却しているが、所得税法施行細則第四条により減価償却の対象とはならず「ばちばち」についてはこれを窺わせるに足りる何等の証拠はない。そうすれば減価償却費は合計金三五、九五八円と認められる。

4. そこで、原告の昭和三〇年度分の純資産増加額を算定するに、まず、(イ)資産の部の期首合計金額金一〇六、七一〇円から負債の部の期首合計金額金九三、〇〇〇円を控除した金一三、七一〇円より(ロ)資産の部の期末合計金額金三八二、〇六八円から負債の部の期末合計金額金六三、〇〇〇円を差引いた金三一九、〇六八円を控除した金三〇五、三五八円が原告の同年度分資産増加額となり右の資産増加額金三〇五、三五八円から減価償却費金三五、九五八円を差引いた金二六九、四〇〇円が原告の同年分純資産増加額である。

(二)  純資産増加額に対し、加算或は減算すべき額。

1. 生活費

証人佐藤隆一の証言並びに同証言によつて成立の認められる乙第三号証の九によれば、政府機関である農林省統計調査事務所札幌支所が、北海道における二町乃至三町の田畑所有者農家四四戸を調査対象として、被調査対象の昭和三〇年度における家計費を飲食費、被服費、光熱費等の家計費の項と国税、市町村税等の公租公課の項に分けて調査した資料(右乙第三号証の九)が存し右資料によると、被調査対象の同年度における平均(なお年間延世帯員数は七五、四三人)家計費は金三一二、二六四円であり、同平均公租公課は金三三、六二八円であること、しかし、右の調査は課税のためになされたものではないから、公租公課中に、課税所得算定のうえからは事業に必要な経費として控除されるべきものも含んでいるので、これを差引く必要のあるところ、右資料による金額は、

〈省略〉

であること、したがつて公租公課中金一八、一〇九円が必要経費として控除されるべきことが認められる。

しかして右被調査対象の年間延世帯員数は七五・四三人であるから一人一月分の所得算定の生活費は金四、三四六円二四銭となるところ、原告方の世帯員数は養女峯子を含んで合計六名であることは当事者間に争いがないから、その延年間世帯員数は七二名となり、原告方の年間生活費は金三一二、九二九円となり、右生活費は証人佐藤隆一の証言によつて認められるように所得の変形として、前記純資産増加額に対して加算すべきものである。

2. 預金利子が金五二一円であり、これが純資産増加額から控除されるべきものであることは証人佐藤隆一の証言並びに同証言によつて成立が認められる乙第三号証の二によつて肯認され、これを覆し得る証拠はない。

3. 昭和二九年度分超過供出奨励金は金二、九四四円であつて、これも同じく純資産増加額から控除されるものであることも右佐藤隆一の証言並びに右乙第三号証の二によつて認定され、これを妨げるに足りる証拠はない。

4. 又前示乙第二号証と証人佐藤隆一の証言によれば、米穀の事前売渡申込制度によつて供出した場合には売渡減税として所得金額から特別控除をうけるが、資産負債増減調査の方法によつて所得金額を算定しているときは、(イ)昭和二九年一〇月一日から同月一五日までに供出した分につき一石当り金一、八〇〇円、(ロ)同月一六日から同月三一日までに供出した分につき一石当り金一、五〇〇円の割合による金員を控除することになつているところ、原告は右(イ)の期間内に一〇石八斗、(ロ)の期間内に三七石二斗を供出していることが認められるから、右控除すべき予約減税は金七五、二四〇円であり、右認定を左右するに足りる証拠はない。

5. したがつて、純資産増加額に対する加算(生活費金三一二、九二九円)減算(預金利子金五一二円、超過供出奨励金金二、九四四円、予約売渡減税金七五、二四〇円)差引額は金二三四、二二四円となる。

(三)  してみると、原告の昭和三〇年度における事業所得金額は、前述(一)の純資産増加額金二六九、四〇〇円と同(二)の加算減算差引額金二三四、二二四円を合算した金五〇三、六二四円であると認められる。

六、はたしてそうだとすれば、所得標準率によつても資産負債増減調査の方法によつても被告がなした原告の昭和三〇年度分所得金額を金三四八、三二一円と更正した本件更正処分はなんら違法でない。

よつて、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村瀬泰三 裁判官 田中永司 裁判官 山之内一夫)

「昭和三〇年度農業所得明細書」

〈省略〉

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